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9月の海はきらきらと輝いていた。 一月ほど前まではここも海水浴客で賑わっていただろう。 鎌倉の由比ヶ浜。なにより観光地の海であるが、賑わいも去り、台風も過ぎ、今は穏やかな波が打ち寄せている。 平日であることもあってか、周りに人の賑わいはない。 あまりに波が穏やかなので、サーファーもいない。 一組の家族連れが波打ち際で遊び、一組のカップルが少し先を腕を組んで歩いている。 沖には二隻ほどの貨物船が通り過ぎるのが見え、それを目指していくかのようにカモメが飛んでいく。 空は雲一つ無く、海面を太陽の光が照らし、潮の香りが今は心地良い。 「美帆!久しぶりだな。」 俺は砂浜の真ん中の流木に腰掛けて語りかけた。 答えるかのようにカモメの鳴き声が聞こえてくる。 「やっとここに来れたよ。10年掛かったけどな。おかげで俺、26歳になっちまった。」 すごく穏やかな時間の流れを感じながら、俺は言葉を続けた。 「美帆に出された問題、やっと答えが出たよ。」 海面の光の輝きが美帆の微笑みのように思えた。 「君も喜んでくれるの?」 ふと風が吹いて、俺の頬をすり抜けた。 「答えを伝えに来た。でももう少しこのままでいたいな。」 吹き抜ける風はまだ優しかった。
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