1 屋上のウソツキさん

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「ふーん」   男はまた黙って空のほうを見て、甘い匂いのするお菓子をひと粒、口の中に入れた。   あれ? この状況って……。   よく考えたら得体の知れない男の人と普通にしゃべっている。 今さら、ヤバいんじゃないか、と少し怖くなってきた私は、帰ろうと思ってカバンの持ち手を握った。 その時。 「ひゃっ!」    突然ぬっと目の前に彼の手が伸びてきたから、驚きすぎてのけぞりながら立ちあがってしまった。 勢いがよすぎたからか、プラスチックの簡易ベンチが少しずれる。 「すげ。過剰反応」   突っ立ったままカバンを胸の前で押さえている私を見あげ、男が初めて薄く笑った。 「いえ、あの、帰ろうと思って」 「はい、あげる」 「え?」   男は先ほどから差しだしたままの手を、さらに私のほうへ押しやる。 「手、開けて」
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