3 落とした傘、借りた傘

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「あ……」   驚きすぎて、うまく言葉が出てこない。 瞬きを三、四回繰り返し、口を半開きのままで固まる。 「晃樹? 晃樹なら今日いないんだけど。困ったな。なにか用だった?」 「いえ……か、傘を借りたので返しに……」   晃樹っていうんだ、ウソツキさんの名前。 初めて知った。 「あら、そうなのね。わかった、伝えておくわ。えーっと……なにさん?」 「た……種田美亜です。それじゃ」   私はなぜかこの場から一秒でも早く逃げだしたくなって、傘をずいっとその美人さんに預けると、すかさず頭をさげて立ち去った。 「え? ちょっ、もしかしてアナタ……」 彼女の声を背中に聞きながら、エレベーターを待つ時間さえ惜しく、そのまま階段を一気に駆けおりる。 私、昨日今日と走ってばっかりだ、なんて思いながら、なぜか情けないような痛いような気持ちが、じわじわとせり上がってくる。
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