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妙な空気を察したのか、ちゆが折れた箸を加えたまま侑磨に話しかける。
「ん?」
「今日も美術室行くの?」
「あぁ、もちろ…ん…?」
侑磨がようやくちゆの箸に気が付いたようで、目を見開いてちゆの口元を見ている。
「あたしは今日行けないから。友達と映画見に行く約束しちゃったの」
そう言うちゆの口元で2本のプラスチック製の箸の残骸がピコピコと上下している。
「そ、そっか」
(…言うべきが言わないべきか。大悟は言わない、という選択肢を選んだみたいだな…)
「あ、で、でも心配しないでいいから。女の子と行くし」
なぜ顔を赤らめる?と侑磨は疑問に思ったが、そんなことよりも口元で踊っている残骸の方が気になって仕方がない。
(箸の残骸を加えたまま喋るとは…変なところでちゆは器用だな)
「ちゆ…いい加減気づけ」
そんな二人の様子を見かねた大悟がはぁー、と大きく息を吐く。
「え?何を?」
驚くちゆに連動して、口元の残骸もピタリと動きを止める。
そして大悟の指摘を『待ってました!』と言わんばかりに侑磨がちゆの口元を指差す。
「「箸」」
侑磨と大悟が全く同じタイミングで全く同じことを言う。
「…あ」
そして、ようやく気付いたちゆの口元から残骸が落ち、カランカランという音がする。
「…またやっちゃった」
「またって…前もやったことあるのかよ」
呆れたように侑磨が言う。
「な、何よ!全部侑磨が悪いんだからね!」
「何で俺なんだよ!?」
「そりゃあ、あんたが…」
そう言ったところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「はいはい、じゃあ夫婦喧嘩はまた明日にでもしてくださいねー」
そう言って席を立ちあがり、机を移動させる大悟。
「なっ!?」
「ふぅっ!!?」
同じタイミングで二人が驚く。
ちゆにいたっては、しまおうとしていた箸を落としてしまった。
「誰が侑磨なんかと「こんなやつと夫婦になんかなるか!」ならないわよ!」
バン!と再び同じタイミングで机をたたくちゆと侑磨。
説得力ねぇー、と呆れながら二人をスルーして大悟は自分の席に戻った。
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