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(昼休みが終わった後って、妙に時間の経過が早いよな)
そんなことを考えながら侑磨は一人で美術室に向かっていた。
放課後を告げるチャイムが鳴った後、ちゆは『べ、別にあんたと夫婦になりたいなんか全く思ってないんだから!あと、今から映画行くのは本当に女子だから!』と意味の分からない言葉を残して教室を飛び出していった。
そして大悟は妙に真剣な顔つきで携帯電話の画面を見た後、『用があるから先に行っておいてくれ。後ですぐ行く』とだけ残して教室を出ていった。
「今日は珍しく一人…か」
そんなことを言いながら職員室で受け取ったカギを鍵穴に差し込み、手首をひねる。
ガチャリ、という音が聞こえ引き戸のドアをガラガラと開ける。
絵具のにおいなのだろうか、それとも木の匂いなのか。
少し懐かしい匂いが侑磨の鼻を刺激する。
(あぁ…。やっぱりここは落ち着くなぁ)
いつもの指定席である窓際の席に腰掛ける。
窓の向こうでは野球部やサッカー部が大きな声を出して活動している。
(こんな暑いなかよく走りまわったりできるよな…。どう考えても正気の沙汰じゃない)
中学校に入りたてのころは侑磨も外の景色の一部となっていたのだが、体が成長していき段々と開き始める運動神経の差に侑磨はついて行くことができなかった。
(まぁそのおかげで勉強はそこそこできるようになったけど…あくまでそこそこだしなぁ)
そんなことを考えながらいつも通りに教室の隅にある本棚へと向かう。
この本棚には、誰か作品の参考にでもしていたのだろうか。
さまざまな種類の図鑑が置かれている。
それをただぼーっと眺め、気が向けば絵を描いたり何かを作ったりする。
それが侑磨の習慣だった。
(俺の唯一の特技と言えば平面の絵を立体にして作ることができる、という特に意味のないことだけだしな…)
空間把握って言うんだっけ?と一人で首を傾げる侑磨。
誰にでもできるかもしれないのだが、侑磨の場合はその精密さが常人離れしている。
何を作らせても、寸分の狂いなくイメージ通りに作れてしまうのだ。
(…それにしても、やっぱり一人はさすがに寂しいなぁ…)
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