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いつもならちゆがその隣で読書をしたりしているのだが、今日はいない。
(あんなに騒がしい奴でも、いないとなると結構寂しいもんだな)
ちゆに以外と助けられてたのかもな、と侑磨は思う。
(…って何考えてるんだよ。やっぱり今日の俺は何かがおかしいな)
なんだか照れくさくなり、ぼりぼりと後頭部をかく。
そして向かいの席に座るはずの大悟は、ここ最近よく抜け出すようになっていた。
酷い時には授業中に抜け出すこともあり、『何をしてたんだ?』と聞くと『綺麗なお姉さんとデートしてたんだよ』などと適当にごまかされた。
野球部でもないのに常にバットをたすき掛けにしている高校生とデートをしてくれるお姉さんがこの世の中に存在するのだろうか。
いるのならばぜひとも紹介してほしい。と侑磨は強く思った。
「ん?なんだ、これ?」
ふと本棚を見ていると、いつも眺めている図鑑の前に小さな青い石が置いてある。
(誰かの忘れものか…?)
そんなことを考えながら、誰のものかも分からないにも関わらず手にとって眺めてみる。
(それはない…な)
この美術室は、侑磨と大悟、ちゆの3人しか利用していない。
カギを借りる為に美術部の活動という真っ当な理由を掲げてはいるものの、実際侑磨を含めた3人以外は幽霊部員だ。
つまり、誰かが忘れ物をするということはまずありえない。
(確か、授業でもここは使われていないはず)
じゃあ何のためにあるんだよ、と侑磨は疑問に思ったがその答えを提示するのはおそらく校長でも無理だろう。
(それにしても…綺麗だな)
そんなことを考えながら侑磨は石を眺めていた。
外の光を吸いこんで、小さな青い石がキラキラと光る。
その光が空のように心地のいい青色で、なぜか懐かしさを感じる。
見ているだけで侑磨は心が癒されるような錯覚を覚えた。
(あれ…。なんか、眠くなって…きた…?)
石を見ていた視界がだんだんとぼやけ始め、体の力が抜けていく。
(まずい、昨日夜更かししたせいかな…)
このままだと椅子から落ちるかも…と思ったが、侑磨に体勢を持ち直せるような力はすでになくなっていた。
ガタン!と椅子から落ちる大きな音がしたが、その音にも、衝撃にも侑磨が気づく事はなかった。
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