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彼らに気付かれ無い程度に、そっとDVDを直すふりをしながら二人に神経を集中させていく。
「これ一本しかないから、諦めてよ!
見終わったら速攻で返しに来るか
ら!」
「何であなたが先なんですか?
その理屈でいくなら、俺が先でもいいでしょう?」
まぁ、正論ですね。
どうやら、見たいDVDが重なり、運が悪い事にそれが1本しかない。
そして、どちらも今日見たいと譲らないわけだ。
もう少しドラマチックな展開を期待したんだか、現実などこんなものだろう。
後は、どちらか(この流れからするに男の方)が、妥協すればそこで終了だな。
彼らには申し訳ないが、勝手に幻滅してレジに戻ろうかとその場を離れようとした時、女の声が聞こえた。
「あ~、めんどくさい。
あんた、学生さん?ここに旅行にでも行きたいの?」
女は長い髪を乱暴にかきながら、男に尋ねる。
「はぁ。まぁ、そんな感じです。」
この、酔っ払いウザい。
その思いが、言葉・態度から滲み出てきたが、女は一切気にしていない様だ。
「因みに、恋人は?」
「それ、今関係あります?」
「有るから、聞いてんだけど。
早く答えて!時間が勿体無い。」
若干険悪な空気が濃くなってきた。
面白い展開ではあるが、店の中で面倒を起こされるのは困る。
「お客様。」
遠慮がちに、困惑した風を装おいながら声をかける。
どうせなら、最後までこの劇を見ていたいんだが生憎そろそろ交代の時間が近い。
次に来る学生にはこの二人の相手は少々荷が重いだろう。
「あぁ、騒がしくしてしまってゴメンなさい。
今、行きますから。」
そういって女は男の腕を取り、店をあとにした。
余りにあっさりとした態度に元々知り合いだったのかと、勘繰ったがやはり二人は他人同士らしい。
「離してもらえませんか?」
「おい。聞こえてんだろ?!」
男の声が段々遠ざかり、自動ドアの開く音がした。
「ありがとうございました。」
こんな時でも、条件反射ってやつか。染み付いた挨拶はすんなりと俺の口から出ていた。
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