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「…あらら。見つかってしまいましたか。
念入りに気配は消しておいた筈なんですけどね」
――はたして。
その女は、本当にそこに居たのか。
俺の『目』に写るソイツの姿は、あまりにも不確定過ぎた。
…もっと簡単に言うか。
存在しているように、感じられなかった。
「…テメェ、人間じゃねぇな?」
密林を見渡せる、一つ抜きん出た岩崖の上。
その女は巨大な月を背に、威風堂々とそこに立っていた。
「初対面の女性に対して、随分の不躾な挨拶をするのですね?
それがこの世界のルールですか?」
咎めるような口調ながら、その実、女は朗らかに笑っていた。
その表情は小さな子供をあやすような、優しげな顔で。
…偉く、気に食わなかった。
「次は言わねぇ。お前は、何だ?」
背中から愛剣を抜き放ち、アンレイフォードを発動する。
…なのに、いつものように煩わしいウィンドウは表示されねぇ。
頭の中で鳴り響く警報が、より一段と大きくなった気がした。
「…何、でしょうね?」
その返答は、不明。
奴自身が、その質問に答えを見いだせていないようだった。
指を顎に当て、困ったように微笑む女。
陳腐な手品師のような格好さえしていなければ、あの女とそっくりであっただろう、その顔立ち。
一向に白く見えない金髪だと言うのに、俺の機嫌は損なう限り。
内側で迸る欲求を自制し、あくまで冷静を保って奴から情報を聞き出す。
「…私に私は分かりませんね。
どこからか転がり落ちてきた、いわばイレギュラーのような物ですから、私は。
…そう、アナタと同じですよ。
『赤眼の忌子』さん♪」
瞬間、剣を薙ぎ払う。
0からトップスピードへ急加速する。
常人ならば、絶対に視認出来ない…出来るはずのねぇ一撃。
「まったく、乱暴な方ですね♪
思わず溜め息が出ちゃいますよ、ふぅ」
女は、『何事もなかった』 笑顔のまま、俺の後方に立っていた。
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