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「…ッ、テメェ…!」
何を、と言おうとした唇を塞ぐ。
そんな馬鹿をやるのは、三流のやる事。
こんな『面白い』のに『面白くない』奴が、わざわざ手の内を曝す筈がねぇ。
「しかし、恐ろしい速さでしたね。
貴方、誇れると思いますよ。私が思うにそのスピード、ありとあらゆる世界でトップクラスです♪」
「うぜぇ」
「あらら、手厳しいです」
気分を害した様子もなく、女はただ微笑むばかり。
…ますます、気に食わねぇ。
「…喰らえ」
剣に纏わり付く黒炎を、斬り飛ばす。
三日月に形を変えてゆくそれを見つめ、その女は。
「…随分物騒な技を使うんですね。今更ですか」
苛立つ程に、笑顔を滲ませ。
-愚人ノ行進-
「No.1,=Dunce March=」
艶やかに、呪詛を紡いだ。
途端に飛び交う、紙、紙、紙。
それらが全て女の元から飛びだし、奴の周りを自我持つように荒れ狂う。
わからねぇ。
一体、どういう属性の技だ、アレは。
「…普通じゃねぇとは最初から思ってたが…」
――だからこそ、俺は悦んだ。
トランプ、いや。
タロットカードの吹き荒れる、稀有な颶の中へ。
「テメェはどうやら、ここの連中なんざより、何倍も俺を楽しませてくれそうだなぁ………!」
一転、凍り着いたように代わり映えしない笑顔に、零度の光を宿した奇術師に向かって、駆ける。
「…少々、おいたが過ぎますね。
痛い目にあって貰いましょうか」
掌を翳し、女の唇が歪む。
その瞬間、剣を引き抜いた。
「……殺す!」
-刻 め-
「――=Carve=」
相対する、二つの言の葉。
針と化した黒炎が、突き刺さるタロットを貫き燃え尽くす。
平和な筈の密林の高台。
それは今、何よりも危険な戦場へと変化した。
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