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「っ、ん……」
「またよし、」
安達さんのキスは上手い。と思う。
気持ちよくて頭の中が溶けそうになる。
だけど、いつも溶ける寸前でよぎるのは、目の前の綺麗な顔じゃない。
大好きなはずの安達さんじゃない、嫌いなはずの顔。
「まーたーよーし。」
「…安達さん、」
「おいで。」
両手を広げられて、素直にそこにおさまる。以前はこんなに素直になれなかった。誰にも。
安達さんは何でも受け入れてくれる。ぐっちゃぐちゃのどす黒い心の中も、全部。
「又吉、次の休みはどっか泊まり行こかー。」
「え?」
「お前疲れてるみたいやから、温泉とかええんちゃう?」
「ありがとうございます、」
「決定な!全部流したれ、スッキリするで。」
ニッコリ笑った安達さんに、何だか泣きそうになった。
こんなにも自分のことを想ってくれているのに。自分は何なんだろうか。
安達さんは優しい顔のまま俺の目を掌で覆ってそのまま抱き締めた。
俺見てへんから、泣いてまえ。と独り言みたいに呟かれた言葉にもう涙が止まらなかった。
何で俺はこんなに優しい安達さんに甘えて、あいつの事ばっか頭から離れんくて、自分が嫌になる。
「またよし、」
『またきち、』
「好きやで。」
『好きだよ。』
嘘吐き。
『愛してる、またきち。』
「嘘、つきっ、」
「何?」
「…や、何でもないです、」
そうか、と言ってぽんぽんとふたつ撫でられた。
この温もりは自分なんかが貰っちゃいけないものだと自覚しておきながら、与えられるだけの愛に依存した。
もう少しだけ、甘えさせて下さい。
end
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