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引越しが終わり、僕は家の近くを散歩していた。
商店街。僕は以前ここのおもちゃ屋とスーパーによく来たらしい。
公園。しょっちゅう幼馴染みとブランコの取り合いをしたりしたそうだ。
公園の近くの駄菓子屋。公園の帰りにいつも立ち寄ったらしい。 だけど、どれも全く憶えていない。
日も傾いてきたので、進路を家に変えた。小道から表通りに出ようとした時、通りの信号が点滅しだしたので、僕は走って信号を渡ろうと通りに出た。
「きゃっ…」
すると、出会い頭に誰かとぶつかってしまった。ぶつかった人に目を向けると、女の子が尻もちを付いてた。
「痛たたぁ…ちょっと、気を付けてよ!」
彼女は僕を睨んで言って立ち上がる。
「すみません。前をよく見てなく・・・」
「…恭ちゃん?」
すぐに謝ったが、僕の謝罪の言葉は途中で女の子に遮られた。
「ねえ、恭ちゃんなの?」
彼女は、僕の顔を驚いた様に見て僕に問う。恭ちゃんとは僕の事だろうか?
目の前の女の子の顔を良く見て、記憶を巡らせる。肩に掛かる位に伸びた癖のないセミロングヘア。こちらを見つめる瞳はパッチリしている。歳は僕より少し下だろうか。全体的にまだ幼さが残る。身体は小柄で、背丈も僕の胸くらい。
「えっと…どこかで会ったことあるっけ?」
「あ…」
結局、僕はこの女の子に覚えが無かった。そう聞き返すと、彼女は肩を落として首を振る。
「ううん…間違い人違いだったわ。それより、今度から気を付けてよね」
どことなく寂しそうにそう言い、彼女は去って行った。信号を見るとすでに赤に変わっており、無数の車が行き交っている。
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