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やったよ。やりやがったあのバカ。
「バカ野郎、まだ始まったばかりだ! へばるのはあと23周してからにしやがれ!」
「ふ、ふぅ……ら……ばはー、ぶはー……」
始まったばかりとか言うが、かれこれ既に三時間は運動しっぱなしである。
つまり、本日の時間割りは。一時間目体育、二時間目体育、三時間目……と、全ての時間が体育……というか体育祭に向けて猛特訓中である。
「ふはははは! 頑張って鍛えろ貴様ら!」
だというのに、本人はめちゃくちゃ優雅な生活である。
日傘代わりにパラソルを立て、トラブルバスターズと銘打たれた図工室から机とアルコールランプを持ってきて、紅茶をすすって愛読書を読む。優雅過ぎる優雅な生活である。
「なぁんで、あいつ……はっ、あんなところ、っはっ、お茶飲んでんねん……!」
流石に野球バカの五十嵐でも、この苦行には息も絶え絶えだ。帰宅部の連中なんか、トラックの脇で完全にへばっている。
なんでこんな事になったか、未だに意味不明である。校長の肩に腕を回し、二三言葉を交わした瞬間に校長が青ざめる。
「あ、あいつ……絶対に校長のぜぇー……、弱味握ってるよなはぁー……」
かくいう俺も、この苦行には耐えられる気がしない。ちょっと、目の前が明滅してるんだが……消えた先におばあちゃんが見えるんだ。なんでだ。
「おいおい東ちゃん、まだまだたったの42周だろう?」
と、神楽が俺の横を笑顔で駆けていく。何故だ。なんであいつあんなに笑いながら走ってんだ。マゾか? マゾなのか?
そこで、昼飯のチャイムが鳴り響く。やっと飯だ!
「よし! ラスト3周した奴から昼飯を食べるぞ!」
なんて言葉が飛ぶ。そこからはもう酷かった。
吹き荒れる砂塵。怒濤の勢いで走り出す生徒。さっきまでトラックの外で生き倒れてた奴らまで走り出す。
この空間がなんて呼ばれてるか知ってるかい?
これが、地獄絵図っていうんだよ。
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