毒牙

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「ん? どうした?」 と、その物凄くやわらかな先生の声音と、自分の吐いた小さなため息の音に、意識が現実へと引き戻された。 でも……何でかな。 何か悪い事をした訳でも無いのに、視線がぎこちなく左右に游いでしまう。 「あっ……頭痛いんで、ちょっと休ませてもらって良いですか?」 何とか言葉を絞り出し、いつまでも泳がしとく訳にもいかない視線は……何となくベッドの方へと向けてみる。 すると、目の前の男の子の足首に湿布らしき物を貼りながら、一瞬、先生も私と同じ方向に視線をやって……。 「……ああ。んじゃ、取り敢えず、ベッド好きに使って良いから」 「……はい」 返ってきたのは、そんな軽い感じの返答だった。 それにまた小さく返事を返した私。 二つ置いてあるベッドの内、壁際の方のベッドに向かうと、仕切りのカーテンを閉めた。 「……ったく。高ニにもなって廊下走ってすっ転んで足挫くとか、何やってんだよ。こちとら、野郎のゴツゴツした足に湿布なんか貼ったって嬉しくも何とも無ぇんだよ。てか……最悪? マジで萎えるわ」 カーテンで空間を仕切ったからと言って。 姿は見えなくなっても、その話し声までが聞こえなくなる訳じゃない。 だから……と言う訳ではないけれど。 モソモソと布団に潜り込む間にも聞こえてくる会話に、悪いとは思いつつ。 私はこっそりと聞き耳を立てていた。
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