毒牙

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「失礼します……」 少しだけ、久し振りに足を踏み入れた保健室。 微かに香る消毒薬の匂いが相変わらずなのは……まぁ、当たり前か。 梅雨の時期特有のジメジメとした空気を遮るように、程よく空調が効いているこの空間。 入ってすぐ目の前には、カーテンに仕切られたベッドが二つ。 そして、左手側に薬品棚や治療をするスペースが置かれている。 取り敢えず先生を探して……ふと、人の気配を感じたそちら側に目をやれば。 そこには“噂”の春木先生と、男子生徒二人の姿があって。 一人は治療を受けてる最中みたいで、もう一人は……頭でも打ったのかな? 椅子に座って、オデコを氷で冷やしてる。 と、それまで俯いて処置をしていた先生がゆっくりと顔を上げると、その様子を眺めていた私と視線がぶつかった。 あれ。眼鏡かけてる? 普段裸眼の先生しか見た事なかったから、これはこれで新鮮かも。 しかも、近くで見ると随分イケメン度が増して、遠くから見るより更にカッコ良く……。 って、別に先生の顔に見とれてたとか、そんなんじゃないから。 頭が痛くてちょっとぼんやりとしてただけだから。 誰に聞かれた訳でもないのに。 実際、先生の顔に釘付けになってしまった自分にそうやって必死に言い訳してる私ってば……何やってんだろ。
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