嫌いなこと

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「あ? 誰だ、テメェ」  人の顔と名前を覚えるのが、極端に苦手な――レイド達に言わせれば、苦手なのではなく、しないだけらしいが――俺の「見ず知らず」が、果たして本当に「見ず知らず」なのかはさておき、その男は俺の肩に手を置いてきた。その馴れ馴れしい態度と、その前の一言、「別嬪の兄ちゃん」に不愉快さを隠さず、返事を返してやる。 「いやぁ、ちょっとそこで、あんたらの話し聞いてたんだけどよ。何なら奢ってやろうか?」 「……いや、見ず知らずの男に奢ってもらうのは、遠慮しとく」 「何だぁ? つれないねぇ。毒なんて盛りゃあしねぇよ」 「そういう意味じゃねぇ。悪いな、あんたが良い女だったら、考えるけどよ」  他人に借りを作るのは、かなり嫌いだ。  ならレイドはどうなんだとなるが、俺の中では心を許せる相手は「他人」ではない。そういうわけで、自分勝手な解釈だが、レイドなんかは他人には入らない。ので、借りを作っても平気だ。
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