営内班。

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田中軍曹は暫く黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。 「十河二等卒。貴様は蛇や溝鼠や梟(ふくろう)を見た事があるか?」 「ありません」 「鳩山伍長は?」 「自分もありません」 「鐘内貴様は?」 「ないであります」 「乙保稲はどうだ?」 「ないな。そんなことより田中…軍曹殿、生意気な新兵を…」 「由比はどうだ?」 「自分も会った事がありません軍曹殿」 こうして分隊1人1人に同じ事を聞く田中軍曹。やがてゆっくり口を開いた。 「実は俺も無い。よく考えてみろ十河。俺達モグラが今の社会を築いて80年以上過ぎたが、その間蛇や溝鼠や梟は何を食って生きて来たと思う?」 「人間の食い物をサシクって(陸軍の隠語。盗むまたはかっぱらうという意味。)きたか、それぞれが餌とする動物であります」 「間違ではないが満点はやれんな。貴様は興津?」 田中軍曹に指名された興津は言い辛そうに答えた。 「…モグラであります」 再び凍付く一同。但し今度は恐怖の為である。 「その通り。何故判った?」 「曾祖母が若い頃に畑で、モグラが蛇に丸呑みにされる所を見たという話を聞いた事があるからであります」 「うむ」 田中軍曹は興津に頷くと分隊に向直った。 「蛇共が我々を襲わないのは餌が足りておるからだ。 しかしそれが永久に続く保証は皆無である。奴等と真先に出くわす危険がある者は誰か?。 答は一つ、我々帝国陸軍軍人に他ならない。その時には当然武器がいる。蛇も梟もドブ鼠も、徒手空拳で勝てる相手ではないぞ十河二等卒」
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