《アパチの精霊》

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晴れ渡る空。 広大な平原に森が侵食を始めて数百年が経ち、アパチ南端のマイニは草原と森が混在し合う特殊な地形となっていた。 マイニ平原の更に南、あと少しで海が臨める森の中央で、一人の空人が息を潜め神経を研ぎ澄ましていた。 近寄る大きな力を感じつつ、彼の頭はいかにこの大陸を脱出…いや、海を渡るかに傾倒していた。 カイトは放した。 北へ行くよう言い付けて、自分は南へ南へと来たのだ。 トームに力を借りようかと考えたが、そもそもアパラスカの極寒地帯を抜けるにはそれ相応の準備がいた。 あの男は見逃さないだろう。 飄々としながらも、すべてを見透かす力を持っている。 皆はその力に心奪われたが、俺の血がそれを拒んだ。 空人にして人間の母を持つハーフの俺には誰も知らない特殊な力がある。 それが"色眼"。 相手の気配を色で感じることが出来る。 ワンという男は、黒かった。 あんな色は見たことがなかった。恐怖を覚られぬように過ごす日々は神経を磨り減らしたが、ここまで辿り着いた。 しかし、海を渡るのはもう不可能のようだ。覚悟を決めなければいけない。 平原にたくさんの足音が響き、荒い呼吸を消すかのように戦士達は声を上げる。 いくつかの種類の獣人の混合部隊は血眼になって周囲を見ながら行軍する。 ある者は鼻を、耳を、目を最大限に使い捜索している。 逃げ道はない。
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