一章一話 疑似恋愛

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 はい、そうですね。すいません。全部、自分が悪いんです。理由は解りませんが。困ったもんだ、全く。 「そういえば、兄さん、時間がもうあまりありませんが、準備は終わってるんですか?」  撫子が訊く。準備とは学校の準備の事だろうから、俺は撫子の前にカバンを差し出し、完璧だと答える。  すると、何故か撫子は俺のカバンを引ったくり、中身を見始めた。理不尽な事で有名な抜き打ち荷物検査が始まる。ボクにはプライバシーが無いんですね、わかります。俺の全てがさらけ出された。 「筆記用具に大学ノートとルーズリーフ。教科書は今日配布されますから。あ、お弁当は今入れちゃいますね。ハンカチティッシュも詰めときます。それと音楽プレーヤーに携帯ゲーム機。………うん、完璧ですね、兄さん」 「当然だ」  愚問な。俺が転校初日にミスると思うなよ? イベント事には準備を完璧にする男なのさ、ボカァ。  その後、残りの朝食を摂取し、俺は洗い物をしている撫子を玄関で待つ。洗い物をしようとしたら追い出されたのだ。なんと卑劣な。 「お待たせしました。では、そろそろ行きましょうか、兄さん♪」  撫子は声を弾ませて、踊るように靴を履く。 「お前なぁ、洗い物ぐらい手伝わせーや。おじさん、寂しいやん」  てか、笑いながら包丁持って追い出すの止めていただけませんか? 怖いんです。本当にあった怖い話なんです。 「だって、兄さんのお世話をするの、好きなんだもん…」  撫子は照れているのか頬を赤く染めながら拗ねたように言う。だからって、その世話する対象を殺傷しようとするのはどうかと思うなぁ、おじさん。 「それよりも、兄さん」  妹の恐ろしさに戦慄していると、その妹が俺を下から見上げるように見て話を掛けてきた。
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