一章一話 疑似恋愛

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『兄さん、喧嘩はいけませんよ。相手を傷つけるということは、自分も傷つけるということなんですから』  五月蝿い、黙れヤンデレが。第三者(主人公と杏子除く)がいるときは猫被りやがって。二人きりになった途端病んでんじゃねぇぞ、コラ。襲うぞ、コラ。  はい、キモいですね。心の声とはいえ、キモいですね。だけどこれが俺の本性さっ! 『ちょっと、椿ー。杏子のお兄ちゃん取らないでよー!』  大丈夫。君はいつだってボクのナンバー1さ。俺の胸は杏子の為にある。これ、常識な。  ちなみに、椿とは、さっき説明した新ヒロインのヤンデレ妹だ。趣味は主人公の観察日記を付けることらしい。好きなゲームは格ゲーやバイオとか、とにかく対象を倒す(殺す)物らしい。おっそろしいですね、はい。  夢想固有世界に浸っている俺は、現実世界で正面から歩いてきたオッサンを最小の動きで避ける。俺の体力は杏子の為に使いたい。  そんな楽園気分をエンジョイしていた俺。しかし、どうやらこの世界に神はいないらしい。 「だから、あの、そういうのは困ります…」 「いいじゃんよ、ちょっとぐらい。俺達と楽しいトコ行って遊ぼうよ」  透き通るような美しいゴッドヴォイスが、イヤホンの装甲を貫通して俺の耳に侵入してきた。 (?)  俺が外界に興味を示すのは珍しい事なのだが、この声の持ち主を一目見なければ後悔すると思い、顔をあげる。 「その制服ってさ、クンプーんとこの制服っしょ? 可愛いね」 「君みたいな可愛い娘が着るとさらに映えるっつーか、輝いて見えるよ」 「あ、ありがとうございます…」  ………見なきゃよかったと本気で思った。一目見たら後悔するとは思わなんだな。つか、ナンパ男A・Bキモいわ。さっきまでの俺もキモいがな。
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