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遥か遠い世界にいた。
それは過去の自分。
夢から見た昔の自分。
過ぎる年月と共に、その記憶が靄によって覆い隠されていく。
最近になり、大切な……とても大切な記憶を思い出した。
無力であることを後悔した記憶。
強くなろうと誓った記憶。
“俺”がまだ、“僕”だった頃の記憶。
それを、一人の少女との出会いによって思い出された。
だからなのか、もう忘れ始めている夢の記憶は、遠い過去の、“アリス”と出会った頃の記憶が再生されていた。
だけどそれは、現実へと浮上する意識と比例して消えていこうとしていた。
・
・
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『お兄ちゃん、起きて! 朝だよ! 遅刻しちゃうよ!』
オーケイ、マイハニー杏子。俺は今日も君の声で覚醒するぜぃ!
「ん……」
「『お兄ちゃん、起きて! 朝だよ! 遅刻しちゃうよ!』」
「……ん?」
夏と冬にある二大祭りの冬の部で買った杏子様目覚まし時計によって目覚めた俺は、体を起こして目を開けた瞬間、リア充の悪夢さんが視界一杯に映る現実に硬直した。
「………なんだ夢か」
リア充の悪夢なだけに、きっとこれは夢なんだ。悪夢なんだ。俺はそう確信し、再び杏子様の抱き枕へとダイブしようと――
「いいえ、げ・ん・じ・つ、ですよ、兄さん」
「やぁお早うマイシスター撫子。今日も怖いほどに美しいぜ!」
――出来なかった。俺は25°程まで下がった上半身を、鍛えぬかれた腹筋の力のみで起き上がった。
『もぅ! お兄ちゃん! 本当に遅刻しちゃうんだからね!』
杏子様の目覚ましボイスはまだ稼働していた。スンマセン、起きるから怒らないで杏子。
覚醒しているのか覚醒していないのか微妙な頭を右手で掻きつつ、ゆっくりと撫子に顔をあげる。
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