一章一話 疑似恋愛

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 その後、撫子は何故か鼻唄を唄いながら俺の部屋を出ていってくれたので、俺も着替えて仕度をし、ダイニングへと行く。  テーブルには撫子が用意した和風の朝食が用意されていて、焼き魚の香ばしい匂いが鼻をつき、俺のお腹がなく。ふむ、計算し尽くされたこの配置にタイミング。流石は我が妹よ。  あれですね。なんかもう、新婚さん的な? 微笑ましい朝の風景だな。おじさん、会社行かなきゃダメかね。 「撫子。いつも思うが、貴様は主婦か? 疑似新婚さんブームが到来しちまうぜぃ」 「はい、いつも新婚さん気分でいますからね」  俺の皮肉めいたからかいの言葉に、撫子は嬉々として返す。ほぅ、そんなに嬉しいのかい。将来の夢はお嫁さんなのカナ。カナ? 「お前はアレだな。なんつーの? もうどこに嫁に出しても恥ずかしくないな。兄さんは誇らしいぜぃ」  結婚式には呼んでね。あっ、でも撫子は艶のある黒髪ロングの和服美人だから、和式の方が良いですね。大丈夫。兄さんは杏子と洋式で挙げるからさ。 「兄さん、それはわざと言ってます? それとも天然ですか? ま、どのみち辿るエンディングは変わりませんけどね。アハハハ」  …………え゛? ちょ、兄さん何か地雷踏みました? 何でキッチンに戻ってるの? ちょっ、包丁なんて出して何するのさ!? 此処には調理されたものしかないんだよ!? え? まだ生物があるって? 加熱調理するために刻む? いや、生物って言ったって……え、俺? そっか、生物って俺の事なんだ、へぇ。………。 「ごめんなさい」  女が怒ったら、理由に関係なく男はとにかく謝れ。偉人の言葉ですね、わかります。 「まったくもうっ、兄さんはデリカシーがありません」
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