1…画家と化猫

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「拝見します」  書を受け取り封を解いて中に目を通す。隣では猫舌なマチコのために青年がふーふーとお茶を冷ましていた。  白い紙に書かれた達筆は幾度かお目にかかっている。  最初こそ読む事が難しく、マチコに手伝ってもらっていたが、今では一人で読む事ができる。  書き記された筆文字を目でなぞり脳内で読み上げ、最後の署名を確認し畳み、ゆっくりと机の上に置き、「お請けします」と軽く頭を下げた。  基宋は当然だとでもいうように、ふんと鼻を小さく鳴らした。 「一応スケッチに向かいたいのですが……。明日あたり大丈夫でしょうか?」  伺いを立てた赤月に、隣で茶を啜っていた青年が嬉々とした表情を浮かばせた。 「下界に行くのも久々だなあ」 「……なぜ水舞の神子も行く気でいるんだ」 「え?」 「ん?」 「なにかおかしいことでもあるかい?」  嫌みを含んだ基宋の問いに、赤月と青年が顔を見合わせて首を傾げ、マチコが含みのある笑みで対岸の彼を見る。 「十鴨(とがも)さえいればどこもかしこもフリーパス。細部まで見せてもらえるからねえ。移動も楽だしここにいる以上は働いてもらわないと割に合わん」  神子と呼ばれた青年――十鴨は目を細めて「ええ」と肯定を返した。
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