0…堺

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 ぴちゃんと水が跳ねた。  真っ赤な水源の中に、その体は横たわっていた。  透明な水を染める、赤い紅い曼珠沙華の中で、白い着物を纏った少年は、目を閉じてその身を赤と水に沈めている。  閉ざされた瞼に、水を含んだ睫毛がきらきらと水の光を反射した。  無造作に伸びた飴色の髪は、水の中に散らばり、赤の間をすり抜けて緑の茎に寄りそった。  薄く赤い唇がわずかに開いて、生きている証しである呼吸を繰り返す。  赤の中に倒れた白、対して空は色を持っているとは言い難い。  夜に酷似した墨色の空。  そこに星はない。ただ月だけが穴を開けたように揺らめいているだけ。  空に反して地上は明るい。太陽に照らされていなくとも、まるで晴れた昼間のように鮮明に全てが見渡せる。  地上では木でできた深い茶色の高い塀がぐるりと世界の縁を一周していた。  塀には一か所だけ閉じた門がある。  塀は高く、ゆうに三メートルは超えるであろう。  彼の横たわる赤く咲き乱れた花の水源は、たいした広さを持たない。  彼を囲むように六畳分ほどの大きさで広がっていた。  水源は広くないが、花はそこかしこに伸びて佇んでいる。  風はなく、空気の揺れもない静かな世界だった。  塀に接して咲いた赤と、泉を囲うように細い竹細工の柵があり、一軒の日本家屋と庭が慎ましやかに広がっていた。  世界の大半を占めるように存在する家は広い。
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