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家の雨戸や障子は開かれ、縁側から下りてすぐの場所に庭があり、その一角に泉と赤は広がっていた。
泉の周り、人が通れるほどの微かな道を作った赤の間。黒い体が赤と緑の林を潜り、水に踏み行ったことで広がった波紋に、横たわった少年の目蓋がわずかに揺れた。
水の粒を散らした睫毛がゆっくりと上がっていく。
夕暮れに焼けた木の幹のような茶色の瞳が不安げに顔をのぞかせた。
開かれた目に映ったのは、赤く紅い彼岸の花と、稲穂の海の様な黄金(こがね)の目を細めた黒猫だった。
「おはよう、赤月(あかつき)」
黒猫は三本の尾を揺らしながら、そう笑う。
少年の目に、まるでこの世界を背負っているかのように映った黒猫は「堺(さかい)へようこそ」と目を細めた。
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