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蛇口から落とされる水が、筆に伝って色を付けて行く。
排水溝へと流れて行く水は透明ではなく、固有に色を付けて消えて行く。
色を灯す飴色の髪の少年は、ゆっくりと筆を丁寧に洗っていた。
彼はこの道具を洗うという作業がとても心地よく好きだった。
画家である彼が描くのはそのほとんどが他人のためであり、描いている時は気が抜けず常に緊張と張り詰めた呼吸が付きまとう。
しかし、この洗うという作業は己のためであり、共に一枚を描くために過ごした親しき仲間への労りでもある。
毎回同じ手順で道具を洗う行為は、体が覚えており、無心でできるのが何よりもありがたい。
だからと言って絵を描くことが苦痛であるとは言えず、むしろ好きだからこそ、画家という生き方をしているのだ。
石造りの流し台をもった水道は、蛇口が四つついており、一番左端は立ったまま作業できる腰の高さで、その右隣からは地面へと高さを降ろしている。
絵の名残、色のついた水をぼんやりと眺める。
各蛇口の真下に、銀の網を張った排水溝があるものの、それぞれの流し台は繋がっており、落ちた水が下の流しへと移ろっていく仕組みになっている。
しかし、左端の流しには水を落とさないための堰板をはめ込むことができるようになっており、用を足さない板は流しの上にある棚に置かれていた。
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