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そのツッコミを待っていた! とばかりに、楽陽は瞳を輝かせた。
「御心配なく! 今なら、先着十名様に、この『油圧式万能自在腕・左手ver』もおつけして、お値段、なんと、銀貨三十枚で御提供いたします!!」
これには、観客達の気炎もさらに高まる。
誰かが「買う!」と叫び、楽陽に金を出した。それに釣られるようにして、他の人達も次々と購入していく。気が付いた時には、荷車の前には長蛇の列が出来上がり、あっという間に売り切れてしまっていた。
まいどありぃ~♪ と、楽陽は最後の客から代金を受け取る。すると、先程まで彼の近くにいた丁淵が、ニヤニヤしながら口を開いた。
「やっぱり凄い人気だな。流石、楽陽の発明品は信頼度が違いすぎる」
そんな彼の両手には、いつの間にあの列に並んでいたのだろうか、『油圧式万能自在腕』が一対。
そして丁淵は、通りの喧騒に隠れる大きさにまで声をすぼめ、顔を楽陽へと近付けた。
「ところで、以前注文したあれはどうなった? 例の、あの、暑い夏を乗り切るのに心強いなんとかっての」
それを聞かれた瞬間、楽陽はがっくりと肩を竦め、溜め息を漏らした。
「丁淵さん、ごめん。その件なんだけど、完成間近で兄達に全部壊されたわ」
「なんと……」
丁淵は、まこと残念そうな表情を浮かべた。
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