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そして、『腕』を持ったまま腕を組み、ううむと唸る。
「全く、なんて酷い事をする兄弟なんだ」
丁淵は、楽陽が家でどのように扱われているのかは、別の日にやって来る彼の兄達によって、大体想像する事が出来ていた。彼等も交易には丁淵の店を利用するのだが、丁淵が楽陽を話題に出すと、途端に彼等の口から悪口が飛び出すのである。
自虐的な笑みを、楽陽は浮かべた。
「仕方ないさ。野良仕事もろくにやらないでずっと引きこもってる俺なんざ、あいつらに取っちゃ邪魔な存在でしかないんだから」
「けどよ。あんたにはそれの代わりに、立派な発明の腕があるじゃねえか。なんでそれをお宅の主は必要としねえんだ?」
すると楽陽の笑みが、自虐から侮蔑めいたものへと変わる。
「それなんだよねえ。けど、あそこでは野良仕事が出来る事こそが全てなのさ。例え他が出来ても、それが出来なきゃ全てダメ。だから、石頭の脳筋共には分からないんだよ」
「困ったもんだねえ。うちだったら、その才を喜んで利用するんだがなあ」
それを聞いた楽陽の目が、急にぱっと明るくなった。
「なら丁淵さん。このまま俺を、その家に預けてくれよ」
しかし丁淵は、両手を前に突き出して振りながら、困ったように顔を歪めた。
「いやいや、待ってくれ。こう見えてなんだが、生憎うちには、これ以上子供を養う余裕がねえ。たとえ儲かったとしてもほら……」
そして、すまなさそうな笑みを浮かべ、後頭部を掻きながら、とある方向を見る。
「……ほとんど、持ってかれてしまうしよ」
そこには、役人の住まう楼閣が建っていた。
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