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その楼閣の、とある一室。壁の無い空間の中で、文官らしき二人組が、欄干に腕を乗せて談笑している。
その様子を見た楽陽の眉間に、少しだけシワが寄った。
「……そうか。つまり、あいつらが余計な事をしているおかげで、丁淵さんは――」
「ま、待て待て待て待て、楽陽、あんた今、一体何を考えようとしてるんだ? 滅多な事は言うんじゃないぞ」
慌てて楽陽を制止しようとする丁淵。しかし楽陽は、そんな彼に気が付くと、ふっと頬を緩めた。
「いや、何言ってんの? 別に悪い事しようとは思ってないから。そもそも、たかだか俺一人に、一体何が出来るって言うんだい?」
「あ、ああ、なら、いいんだが……」
そして楽陽は、杞憂で無駄にかいた汗を拭う丁淵に、ある質問をする。
「ところで、あの人達が手にしてるあれはなんだい?」
楽陽が指差す先にあったのは、楼閣の文官が手にしている何か。遠くからでは白い物体にしか見えないそれで、文官達はそっと口元を隠しながら会話している。
丁淵は答えた。
「あれか? あれは羽扇だ」
「ウセン?」
「鳥の羽で作った扇だよ。最近、一種のステータスとして、文官達の間でちょっとしたブームになってるらしい。まあ、噂程度の情報だけどよ」
「へえ……」
それを聞いた楽陽は、無意識に口端が釣り上がるのを感じた。
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