疎まれ屋の少年

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   うだるような真夏の日差しの下、整地された山地を下る一台の荷車があった。それを引いているのは、若者と呼ぶには些か幼い、十五~六の少年。  その体型は、農村の男児にしては非常に華奢で、腕も白く細かった。日頃、太陽の熱に慣れていないのだろうか、乱雑にまとめられた髪からは、滝のような汗が流れている。 「くそう、本当にこの暑さはなんとかならんのか……」  重い荷車を引きながら、楽陽(がくよう)は一人ごちた。  楽陽の引く荷車の中には、彼の住む村――青麻〈セイマ〉村で作られた麻の織物が、それらを納める場所へ行くまでの食料と共に積み込まれている。期日までに山麓の町まで運んで行き、金品と交換してもらう――それが、今の彼に与えられた指命だった。  渇いた土にぽつぽつと汗が滴る頃、ついに楽陽は歩くのをやめ、荷車を山道の脇に止めた。車輪に倒された雑草が、カサカサと涼しげな音を立てる。  荷車を覆う幌(ほろ)の内側から水の詰まった瓢箪を取り出し、一口ぐいっと飲み込んだ。喉奥の膜が突き破られたような快感が、楽陽の疲れを癒していく。  木々から溢れ出す新緑の匂いと、山からそよぐ優しい風を浴びながら、楽陽はこれまでの経緯を思い浮かべ、「はあ」と溜め息をついた。
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