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――だが、決して、悪い事ばかりという訳でも無かった。
もう一口水を含んだ楽陽の唇に、意地の悪そうな笑みが張り付いている。
(まあ、別にいいさ)
あの後、父は彼に対してこう怒鳴っていた。
『町へ行くまでの飯と納品だけは準備してやる。夜明けまでに村を出られる準備をして、門の辺りで待っていろ。もし明日、俺がそこへ行った時にいなかったら、さらに厳しい制裁をお前に食らわすからな!』
流石にそれ以上の罰は受けたくなかったので、楽陽は素直に従った。
出発直前、父と兄達は、荷車の幌をめくって納品があるのを確認すると、半ば追い出すようにして楽陽を見送った。
だがこの時、父や兄達は知らなかった。その荷車が、実は楽陽の手によって、様々な改造を施されていたという事を。
(いい加減気付けよな。だから脳筋なんだよ)
まず、引き心地が非常に軽い。満杯まで物が積まれているにも関わらず、華奢な楽陽が動かせているのは、このためである。
他にも様々な機能があるのだが、それらは全て、楽陽が一人で手掛けたものだった。彼は野良仕事に興味が無い代わりに、物を発明し、改造する事が大好きだったのだ。
水の余っている瓢箪を、楽陽は荷車に戻す。そして幌を被せると、中でひとりでに音がして、丸底の瓢箪が車内で固定された。
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