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交易は淡々と進んだ。
全ての麻織物が荷台から消え、代金の詰まった袋へと姿を変えた。後はこれらを父に渡せば、楽陽に与えられた仕事は完了する。
交易が終わるや、丁淵の表情が変わった。本番はこれからだろ? と言わんばかりの、どこか興奮した笑みだった。つられるように、楽陽も口端を釣り上げる。
「さてと、せっかくの楽陽さんだからな。今回も例のあれ、見せてもらおうか」
「ああ、俺も最初から、そのつもりだ」
気が付くと、通りを歩く人々も、衣装店と荷車の周りに集まっていた。
「はいはい、みんな離れて離れて」
一旦荷車を一周した楽陽は、荷車を引くための取っ手の一部に触れた。すると、蝶番の蓋が付いた箱のように、その部分だけがパカリと開いた。そして、そこに並んでいたボタンを順序良く押していく。最後に、荷車の端っこから伸びていた短いレバーを、下へ向かって勢いよく降ろした。
刹那、起こった出来事に、通りから歓声が響く。四隅から脚が生え荷車の動きが固定されたかと思い気や、二重になっていた荷台の内側が上昇し、瞬く間に二階建ての屋台に大変身したのだ。
一階部分には風通しの良い幕が下ろされており、内部の様子は見えにくい。しかし、その中には沢山の良く分からぬガラクタと、なぜか皺くちゃになっていない布団などが横たわっていた。
これが、楽陽の改造の真骨頂である。ただの荷車にしか見えぬ外見の代物を、彼はその中で住めるほどにまで変貌させていたのだ。
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