疎まれ屋の少年

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 軽やかな足取りで荷車の後部へと移動しながら、楽陽は喋り始める。 「本日、私が紹介いたしますのは――」  そして幌の中から、何やら細長い物体を取り出した。 「『油圧式万能自在腕』っ!」  人々から「おおっ!?」という言葉が漏れる。 「皆さんが生活をする上で、高いところにある物が取れなくて困った! ……なんて事はございませんか?」  そう言って楽陽は、『油圧式万能自在腕』とやらを持つ手とは反対側の手に握られていた瓢箪を、ぽいっと幌の上へ投げてしまった。荷車の幌と言えど、今やその高さは家の屋根程ある。手では届かない。 「でも、大丈夫。そんな時は、これが便利。これを使えば――」  爪先立ちで必死に瓢箪へと手を伸ばし、届かない事をアピールしていた楽陽は、『油圧式万能自在腕』の隅を握った。  すると、細長い棒のようだったそれが、まるで蛇のようにするすると伸びていき、先端の手で器用に瓢箪を摘むと、あっという間に楽陽の手の平へと運んで行ってしまったのだ。 「――こんなに簡単に、手元に寄せる事が出来てしまうのです。」  驚く観客達。しかし楽陽は、間髪入れずに『腕』を操り弁舌を奮う。 「しかもこれ。ただ高い所に手が届くだけではありません。この無限大とも言える可動域をご覧下さい。これ一つで、背中を掻いたり、セルフ肩揉みも可能。ボディも細いので、箪笥の裏に入った小銭を取るのも可能。さらに、耐熱加工も施されておりますので、誤って焚火や熱湯に落としてしまった場合でも、安全に拾い上げる事が出来ますよ」  まくし立てる楽陽により、さらに高まる歓声。ふと、誰かが口を開いた。 「でも、お高いんでしょう?」
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