始まりのエピローグ

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  「先生、聞いてもいいですか。」 放課後の、活気を失って少し寂しそうな教室。 窓から差し込む夕陽に橙に染め上げられたそこは、現実世界から切り離された別世界のようにも感じられる。 遠くで響く、誰かが廊下を駆けていくスリッパの乾いた音が、ここにある静寂を一層際立たせる。 「……何?」 言葉少なに尋ね返す先生の声は、今にもその静けさに溶けてしまいそうだ。 窓際の一番後ろの席に座る先生と教壇に立っている私。 おかしな事に、いつもとは位置が逆転している。 これが、毎日先生が見ている景色。 私の姿は一体、その目にどんな風に映っていたんだろう。 長い足を投げ出し、机に片肘をついて突っ伏す、だらしのない格好の先生は、こうして見ると生徒に紛れていても何の違和感もないんじゃないかと思うくらい、あどけなさをその瞳の奥に携えている。 その手も、声も、視線も、仕草も、態度も。 否応なしに“大人の男”を感じさせるのに。  
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