0人が本棚に入れています
本棚に追加
昔の団地は呼び出しチャイムはピンポーンという音ではなく、ビーッという不快な音だった、しかものぞき窓が長方形でややでかく、すぐに在宅しているのがわかる、プライバシーもへったくれもなかった。
ペンキの剥げた重々しいドアがゆっくりと開き、中から女性が現れた。
自殺した子の母親、遠山キョウコ(36)だという事がトモの友達、メグの口で明らかになった。
正直驚いた、それはそうだ、見た目は二十歳そこそこの美貌だったからだ。
ウェーブかかった長い黒髪にモデルかと思うくらいの体つき、きつい香水を振りまいている。
トモの連れが事情説明をしている。
不幸事の忙しい最中、色々苦労しているのだろうと思っていたが……聞こえてくる口調がやけにハキハキしている。
当時はまだ不幸事を経験していなかったのでピンとは来なかったが、今思えば私の勘はそれなりに働いていたのだなぁと。
かすかに感じる違和感が、その母親にあった。
言動を気にする度に余計感じる不信感、当時の私はその複雑な感情でイライラしたのかもしれない、カシはムラムラしてたらしいけど。
一通り話が済み、仏前にて線香をあげさせてもらうことにした。
面識ない人に線香をあげるのはちと違和感あったような気がしたが。
一通り済ませ、お茶を用意してくれたので改めて話を聞く事になった。
「この度はわざわざレイの為にありがとうね、メグちゃん達は学校の方は大丈夫?」
ハキハキと、かつ妖艶的な言い回しがやはり気になって仕方がなかった。
「あ、はい。一応許可いただいたので……それで…レイちゃんの事で…」
メグはさらりと嘘をついた、やだこの人怖い…と感じたと同時に友達にはなれねぇなぁと思った。
ちなみにレイちゃんとは遠山キョウコの娘、自殺した子の事だ。
「自殺した原因ね、ちょっと待ってて」
スッと立ち上がり、タンスからピンク色した紙を取り出した。
遺書だ。
不謹慎にも遺書ってあるんだなぁと思った、何か本当に不謹慎だな。
メグを筆頭に回し読む。
「なっ…………?」
驚愕の声と共にメグの顔色が蒼ざめ、立ち上がる。
何事かと思い紙を奪い取る。
最初のコメントを投稿しよう!