黄昏カフェオレ

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 ぼうっとした頭でキッチンを出て、誰もいないリビングを眺める。  黄昏の光だけが、わずかな時を輝かせている。  夜の闇が訪れるまでの、短いときを。  今なら彼女が振り返って微笑んでくれる気がしたけれど、脳裏にちらついた姿さえ、影絵のように朧で、はかない。  ひとつ首を振って、カップに注いだ珈琲に泡立てたミルクを注いでいく。黒い液体はすぐに真っ白に覆われて、ふわふわの泡が淵に盛り上がった。  ひとつだけのカップを、そうっとソーサーに乗せる。手が震えて、零れてしまわないように。大切なものを扱うように。  シナモンはかけなかった。  今も、かけない。  彼女のことばが、そうさせた。  久しぶりに淹れたカフェオレは、少しだけしょっぱい味がした。  -Fin-
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