シュレディンガーの女

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翌日、川島は仕事を早めに切り上げ、駅の構内のコンビニでピースとラークを一箱ずつと、暖かいブラックの缶コーヒーを2本買った。駅から自宅までの道のりは相変わらず暗いが、長い事続いた通り魔の被害も、耳にしなくなっていた。 コンビニの袋をぶら下げて自宅の玄関を開ける。袋が音をたてないように気を遣い、いつものように「ただいま」と小さく呟く。スリッパを履くと同時に由紀子が洗面所から出てきた。川島は顔をしかめる。   「珍しいわね、それお土産?」   「え?ああこれ?煙草とコーヒーだよ。あいにく君の分はない。帰ってるとは思わなかったから。小遣いの余裕もないしね」   川島が言うと、由紀子が興味を無くした冷めた口調で言った。   「居間にご飯あるからチンして食べて」   「ああ。分かった」   川島が靴をそろえて顔を上げると、由紀子はもう洗面所へ戻っていた。   由紀子は仕事を始めてから、箱入り娘らしい世間ずれした印象がなくなった。大した収入はないだろうが、自分の欲しいものは自分で買うのが楽しいようで、前よりも活発になった。今では夫婦間のバランスもどちらかというと由紀子の方に傾いていた。それは川島の方にどこか後ろめたいような感情があるせいだろう。   川島は居間に入ると、テーブルにちらりと目をやる。ラップがかけられた冷めた料理が見える。由紀子は遅くなっても家事をきちんとこなした。それが知らず知らず罪悪感と重圧になっていた。   そのまま料理を通り過ぎるとエアコンはつけずにベランダへ向かう。
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