シュレディンガーの女

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戸を開けてベランダに出ると、右手に目をやり隣人の気配を探る。暗くて分からない。煙草の明かりも見えない。   「ピースさーん、いらっしゃいますかー?」   川島が囁くように言った。  「お、ラークさんおかえりなさい。今日は早いですね」   隣人の返答に川島は安堵する。   「コーヒーを買ってきました。あと煙草をお返しします」   「おお、それはわざわざどうも」   「えっと、どうしましょう?袋ごと投げてもいいですか?」   「じゃあどうしようかな。私の煙草の明かりを目安に投げて下さい」   川島は小さく頷くと、自分の分の煙草とコーヒーだけ取り出して、振り子の要領で狙いを定めると手を離した。   コンビニ袋が風の抵抗を受けてバサバサと放物線を描く。袋を掴む音が聞こえ、中身を探る音と同時に隣人は言った。   「や、気を遣わないでと言ったのに。でも今日はありがたく頂戴しますよ」   「いえいえ、ピースさんは命の恩人ですから」   「ははは、ラークさんは大袈裟だ」   忍び笑いをもらしながら隣人が言い、二人が缶コーヒーのプルタブを開ける音が重なった。
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