シュレディンガーの女

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川島は煙草に火を点け、煙を吸い込みながら言う。    「…ピースさんは自分が何のために生きているか考えたことあります?僕は最近良く考えてしまうんですよ。暗いですよね」   「ははは、いきなり深いですね。ラークさんはお子さんいらっしゃる?」   「いえ、まだです」   「ラークさん。女性に好意を抱くのは何のためだと思います?」   「それに意味があるとすれば、子孫を残すためとか?」   「そうです。種を植えるため。恋だの愛だのは、ただの脳の電気信号に過ぎない。所詮人間はただの動物で本能に従って生きている。だから生物学的に言うなら、生きる意味とは子孫を残すため。それだけです」   「えっとつまり、子供が生まれれば幸せになれると?」   「いえ、そこがゴールだ。生きる意味を達成したのにまだ、生を渇望する。その後の生に意味を見出したがる。人間の具合の悪いところだ」   「じゃあほとんどの人間は生きてる意味が無いって事になりますよ?」   「そう。人間には2種類しかない。生きてるか死んでるか、それだけだ。人生に意味を見出す事に意味はないんだから、悩んだって仕方がない。皆、死にたくないから仕方なく生きているんだ。ところでお宅何年ローン?」   「25年です」   「私もそんなものだ。無理に生きる意味を考えるとすれば、私の人生の目的はローンを払うためになってしまうよ」   川島は困惑しながらも口を開く。 「はあ、なるほど真理ですね。僕もそうだ」   「はは、ラークさんは真面目だ。本気に受け取らないでよ?」   「ローンを払い終わって役目を終えて死ぬ、か。人間って嫌ですねえ」 川島が溜息混じりに言うと、しばらく煙草の煙を吐く音と、コーヒーを啜る音だけが聞こえた。
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