シュレディンガーの女

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「カマキリはね」   沈黙を破り唐突に隣人の声がする。   「え?カマキリですか?」  「そう。カマキリはね、交尾が終わるとメスがオスを喰らうんだ。子育てのための栄養補給にね」   「うわあ、カマキリに産まれなくて良かった」   「うん。そう考えると人間も悪くないでしょう?それじゃあ私はこの辺で」   「あ、はい。おやすみなさい」   「変な話をしてすまない。私はただラークさんを元気づけようとしたんだが、話が脱線した。悪い癖なんですよ」   「いやいや、そんな。面白かったですよ」   隣人が戸を開けながら言う。   「ラークさんも気をつけて下さいね」   「え?何に?」   「メスに喰われないように」   戸を閉める音と同時に再び静寂が訪れた。あれで元気づけようとしたつもりなのか?と川島は苦笑する。短くなった煙草を一口だけ吸って部屋に戻った。   その夜、遅い夕食を終えシャワーを浴びてからベッドに入ると、久しぶりに由紀子に誘われた。形だけの行為を機械的に済ませると、川島は由紀子に喰われる自分を想像して身震いした。
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