シュレディンガーの女

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次の日、川島が仕事を終えたのはいつもより少し遅めの時間だった。満員電車に揺られながら川島は考えていた。   ピースさんは今日もベランダに現れてくれるだろうか。   川島はベランダ越しの隣人との少し変わったコミュニケーションを楽しみにしていた。顔も見えない名前も知らない人間との会話は体裁を気にしなくて良かったし、つまらない人生を見栄でごまかすような事もしなくて良かった。素直に自分の本音を吐き出せる相手がいることで気持ちが楽になる事にはじめて気付いた。   隣人は少し変わった人物ではあるのだろうが、自分の事を思って、話を聞かせてくれたのは確かだ。悪い人間だとは思わなかったし、逆に不器用な人なのだろうと好感を抱いていた。   ふと車内に目をやると、中吊り広告は芸能人の離婚の見出し一色だった。社内での話題にも何度も出てきた。他人の不幸に喜びを見出すのは、自分が不幸だからなのだろう。   やはりみな同じなのだ。人間は生きているか死んでいるかの2種類しかいない。川島は隣人のその言葉を思い出していた。
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