シュレディンガーの女

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川島は部屋を出ると、地下の駐車場に車を見に行った。 酔っていたから、もしかしたら思ってるほど酷い状態じゃないかもしれないと、そう思った。   車の正面に回って、川島は顔をしかめた。 思ってるよりも酷かったからだ。 バンパーは歪んで地面にくっついているし、ウインカーは粉々、左のミラーもない。   「よくこれでここまで走ったな…」   思わず口にしながら、バンパーの端にこびりついているものに気付いてそれをハンカチで拭った。   川島は立ち上がり、キーでトランクを開けて中身を見る。   去年の花見で使った青いビニールシートを取り出すと、車のフロントにかけた。   ベンツSL550。この車は由紀子の父親からのプレゼントだった。 いくらするかは知らないが、川島には手の出せない車なのは明白だった。   川島は義父の好意を何度も断った。   「金とか車とか、そんなもののために君と結婚するんじゃない」   由紀子に何度もそう言った。   交際を始めた時、義父の言葉の端々にそういうニュアンスを感じていたから意地になっていたのもあるだろう。   それでも義父は譲らず、 「君はいい大学の出だし、いい会社に勤めていて、将来も有望だ。はじめは信用していなかったが、父親とは皆そういうものだろう?それでも君を知るにつれ娘を任せてもいいと思うようになった。これを君たちへの最後のプレゼントにさせてくれ。それならいいだろう?」   最後にそう言われて川島も折れた。認められて気分も良かった。   「由紀子さんは僕が必ず幸せにします」   あまりに浮かれてテレビドラマのような台詞を本気で口にした。
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