シュレディンガーの女

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順風満帆のはずだった。ところが、それまでの好景気が嘘みたいに消えた。   不況は終わりが見えず、部署の成果も上がらない。給料は毎年下がった。   入念に思い描いていた未来は絵に書いた餅だった事を思い知る。   ローンの返済で家計は逼迫。 猫の手も借りたいのに圧倒的な義父の財力を頼れない。   はじめてこのマンションを見せた時の義父の表情と、大見得を切った自分の言葉を思い出すと、それだけはできなかった。何度も頭に浮かぶ言葉を自尊心だけで振り払った。義父の落胆する顔を見たくなかった。   金勘定に疎かった妻が、年を追うごとに細かくなって所帯じみてくるのも嫌だった。 自分が妻の品位を貶めているような気がしてやるせなかった。   それでも妻は、義父に言いつけるでもなく、忍耐してよくやってくれている。   妻の努力は十分理解していたはずなのに、頼みの人事で昇進が見送られた。たったそれだけの事で我を忘れた。   酒を飲んで事故を起こし、しまいには由紀子に当たってしまった。   自分が情けなくて仕方がなかった。   こんなはずじゃない。こんなはずじゃない。   川島は何度もそう呟いている事に気付いてやっと我に返った。
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