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「返してよ」
「見せてよ」
手を差し出すけどそいつは返す気
なんて更々ないと言った風にペラ
ペラと捲り始める。
「絵だけは才能あんのな」
そんな皮肉めいた言葉を言ってく
るそいつは、おれの天敵。
同じクラスでもなければ、友達で
も何でもない。
ただおれをからかうのが日課とで
もいうように毎日毎日飽きもせず
隣のクラスからやって来ては、お
れを散々バカにして帰っていく。
そんなことがもう、一ヶ月近く続
いているからいい加減うんざりす
る。
友達のいないおれに、わざわざ声
を掛けてきた変わった人。
黒髪で誠切そうな印象とは裏腹に
口を開けばシャープに尖った言葉
を繰り出してくる。
おれはそれを無視して気にしない
ふりをするけれど、本当は言い返
せないだけだ。
嫌いな、タイプだ。
多分向こうもそう思ってる。
とろいおれが気に食わなくてこう
やって困らせにくるんだろう。
甚だ以て迷惑な話だ。
「もー返せ」
隙を見てスケッチブックを取り返
すと、そいつは「あ」と大して驚き
もせず、それから薄い唇を動かし
て笑った。
その独特で、何処かサディスティ
ックな笑い方も、
おれを困らせるから、嫌いだ。
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