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「あれはこの時代の者じゃないよ。消えた、ということは、あれがいるべき場所に戻った、と考えればいい。
いるべき場所にいるのが、その者の幸せ……じゃない?」
「いるべき……場所……」
やばい。
それは……平成の時代にいたうちに対して言っているようにも聞こえて、心臓が嫌な動悸を奏で始めた。
いるべき場所……。
それはうちにとって、この幕末の時代ではなく……平成の世であり……。
その平成の世にいるのが、うちの幸せ……。
幸せ……?
確かに唯一の家族である弟の俊がいるあの場所には、ささやかな幸せがあるよ。
でも!!
うちはこの時代に来て、この時代の皆さんに会って、かけがえのない関係を作って、それは確かに幸せといえるんだ。
幸せ、なんだ。
そんなことを宗の姿を見ながら考えていれば胸がくぅくぅと苦しくなり、目の奥が熱くなった。
「キミはここだよ。キミはここにいる」
うちの不安を見透かしたような先生の言葉は心にすっと入り込んできて……。
目を覆っていた影がなくなった。
その代わりにその手はお腹に回され、少し強めに後ろから抱きしめられる。
背中から感じれる、先生の穏やかな鼓動に……不安が、少しずつ和らいでいくような……。
うちのいるべき場所が今はここだと……言われた気がして、安堵する。
……宗は幻なんかじゃなくて、いるべき場所に戻ったんだと思う。
そしてうちのいるべき場所はここで……。
それを改めて教えてもらった、不思議な一日になった……。
完
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