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晴れ渡った空。
撫でていく暖かな風。
平和だと思える静かな今に身を置いていると、あの懐かしい日々を時折思い出してしまう。
思い出に捕らわれ、あの人に捕らわれている気がしないでもないけど……。
目を瞑れば、亡くなった大事な人に会える。
そう言われたから、俺は今……懐かしく大事な人に、会っている。
「てことで、勉強は飽きましたから、今から川に泳ぎにでも行きますか!!」
「飽きたって……それが師の言葉?」
「よっしゃァァァ!!!! 泳ぎに行くぜちくしょォォォ!!」
「煩いよ馬鹿牛」
「めぎゃッ!!」
あばら屋みたいな狭い部屋の中は、勉強するには向いてないんじゃないかってぐらいに……古い。
そこに沢山の生徒がぎゅうぎゅうと入り本を広げ学びに来ているというのに。
脳の無い馬鹿な牛は耳が痛くなる程に声を張り上げる。
それが俺の癪に触り苛立ったから、焦げ茶色の髪をした頭を掴んで、壁に叩きつけてあげた。
所々腐り隙間のある壁には、晋作の顔がゆっくりとずれ落ちた後、赤い色がついたけど。
血の気の多い牛にとっては微量なものだから、気にも止めずに牛は転がしたまま。
部屋の前にと目を向ければ、馬面だけど穏やかで優しい印象を与える師……松陰先生が、困ったように頭を掻きながら俺を見ていた。
「栄太郎。駄目じゃないですか、暴力は!」
暴力はいけないと、分かってはいるよ。
でも説教なんか聞きたくないんだけど。
「証拠隠滅が大変なんですから!!」
…………は?
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