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親や大人というものは、喧嘩に口出しはしないものの、相手が身分の上の者となれば話は別となる。
晋作は煩くて馬鹿で愚脳で最悪で……もう最低な奴でしかないけど、親は藩に仕える武士であり。
その子供である晋作も武士の子として、身分は上だ。
足軽の親の子である俺より、遥かに上。
足軽の子が武士の子に手を出し……しかも流血沙汰となれば、相手が悪いにしろ、責められるのは格が下の者と決まっている。
なのに松陰先生という人は……。
「穴に埋めますか? 焼いて灰にしますか? ああ!! 今から川に行くのだから、流しちゃいましょうか!!」
物騒なことを人の良い笑みで簡単に言ってのける。
だから、このあばら屋のような学び舎に集まる塾生達は、身分なんて関係なく……。
「晋ちゃんぶさまぁ!!」
「先生!! ついでに俊輔も殺りましょうよ!!」
「何で!?」
「……目障りだからだ」
笑い合ってる。
師も、子も、武士も足軽も……何にも関係無しに。
「栄太郎君? どこに行くんですか?」
「義助には関係無いよ」
それが俺には合わなくて、隣に座る義助を横目で睨みつけながら席を立った。
この塾は、いつ学ぼうがいつ帰ろうが、基本自由だ。
好きな時に好きなだけ学ぶ。
それが松陰先生の方針らしく、朝から学びに来る奴もいれば、晋作みたいに他の学び舎と掛け持ちしてる奴もいる。
笑い声を背中で聞きながら、部屋から出ようとした。
「はい。栄太郎捕獲」
……肩を掴まれた。
最悪。
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