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「離してくれない?」
松陰先生は体型ほっそりしているのに、馬鹿力だ。
俺の力では肩にある手を振り解けないのを知ってるから、睨みつけながら見上げた。
だけどそんなのまるで意味がないようで、松陰先生は穏やかな笑みを浮かべたまま。
「泳ぎ行きますー!」
……本っ当に、最悪。
どうやら俺はこのまま、川にと強制連行されるようだ。
だけどすんなり連行されるのは癪だから、反抗しようと足に力を入れれば……。
「魚を捕ってみんなで食べよー!」
「うっ……わ!?」
ああ……もう、最悪最悪。
逃げ出そうとした俺を松陰先生は……軽々と担ぎ上げたんだ。
俺をまるで荷物のように肩に担ぎ、意気揚々と外にと出る松陰先生。
松陰先生の突然な提案に慣れてしまっている塾生は、楽しそうにぞろぞろとついて来る。
誰一人帰ろうとしない、松陰先生の突拍子無い学問。
今日みたいな川泳ぎだったり山登りだったり……本では分からない経験をさせるのが、松陰先生の教え方。
それは生きた学問と呼ばれ、他の学び舎には決して無い学問だ。
他の学び舎には無い……松陰先生だけが……いや、松陰先生だからこそ出来る教え方。
それに惹かれて、晋作みたいな武士の子も学びにやって来る。
勿論……俺も。
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