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「いい加減、下ろしてくれない?」
「だって下ろしたら栄太郎は逃げるでしょ? そんなの私寂しいですし」
「松陰先生が寂しがろうと俺には関係ないから」
「栄太郎。私はですね……。実は……」
何?
教え子達を後ろに引き連れて先頭を歩く松陰先生。
その松陰先生の肩に俺は未だ担がれたままなのだけど……。
不意に真剣さを帯びた声色に、俺は耳を傾けた。
もしかしたら俺だけに、松陰先生は何か秘密を打ち明けるのではないかと、そう思ったから。
「誰かに構ってもらわないと寂しくて死んじゃう質なんですっ」
「…………」
前言撤回しようか。
この人に秘密も何もなかったよ。
「栄太郎君。殺気が滲み出てますよ、殺気が」
「うん。本気でこの人を刺したいと思ってるからね」
松陰先生の後ろに来て俺に話しかけてきたのは、義助。
垂れた目を俺に向け、楽しむ笑顔を浮かべている。
「刺したいって酷いですねぇ、栄太郎は。義助みたいに穏やかさを覚えてみてはどうです?」
「生憎、義助みたいに冗談で小馬鹿にしてくる穏やかさは要らないから」
「栄太郎は言いますね~。仕方ないじゃないですか? 義助は私に似てしまったのだから」
……自覚はあったんだ。
義助は松陰先生一番のお気に入り。
義助には教えを特に熱を込めてやるもんだからか、義助は松陰先生の影響を一番に受けて、性格が似てしまった。
つまり、笑いながら小馬鹿にしてくる質の悪さを。
そんな所は元々義助にあったから、それは色濃く馴染んでいるけど。
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