四天王の思い出

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「……松陰先生」 「おや? どうしました杉蔵?」 「……晋作が、起きないのだけど」 義助の隣に並んできたのは、日の当たり方次第では青や紺に見える髪を緩く結った、杉蔵。 そんな杉蔵が指差している先にあるのは……。 「大丈夫ですよ。川に投げ込めば意識は戻りますから」 縄でぐるぐる巻きにされ引きずられ運ばれている、晋作。 晋作は未だ伸びたままで意識を飛ばしているけど、松陰先生の言うとおり川に放り込めば、意識は戻るだろうね。 その前に完全に手遅れになる可能性もあるけど、そこは俺に関係ないことだ。 松陰先生に担がれたまま、松陰先生が塾生と他愛もない話をしているのを呆と聞いていれば、川泳ぎをする川に辿り着いた。 着くなり各々着ている物を脱いで木の枝に引っ掛けたりし、次々と川の中に入っていく。 今の季節は夏で暑いから、川の冷たさは心地いいんだろうね。 だけど俺はそんなのに興味無いし、皆の輪に混ざる気も無い。 だから、砂利の上で放置されている晋作の髪を掴むと引きずり、大きな岩の上にと運んだ。 そうして岩の縁にそれを転がすと 「栄太郎がやりますか?」 「うん。何か癪だからね」 松陰先生にそう答えながら晋作の横の腹を……蹴った。 次の瞬間には水に落ちる盛大な音と、水飛沫があがり。 「がぼッ!! し、死ぬッ!?」 意識を取り戻した晋作の必死な声が、塾生の笑いを誘った。 岩の上から川を見下ろせば、縄に縛られ両手の自由がない晋作は必死な形相で。 けれど足を上手く使い川辺にと息絶え絶えで上がってきた。 ……残念。 黄泉の川にと旅立たなかったみたいだね。
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