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「松陰先生!! 暴力反対ならどうして晋作君を殴り飛ばしたんですか?」
「私のは暴力ではありませんからね。愛のこもった制裁です」
「成る程。愛がこもってたらいいんですね?」
「ええ。相手の為を思って故の力だから」
離れた場所から松陰先生と義助の会話が耳にと届いてくる。
塾生の煩い声も、水を叩く音も混じって、聞こえてくる。
……松陰先生は、身分とか何の関係無しに、相手を怒る時容赦無く拳を振るってくる変わった師。
晋作だけでなく、義助や杉蔵、俊輔だって幾度となく殴られてきているけど。
俺は……俺は一度たりとも松陰先生の拳を受けたことがない。
理由は知らないし、知ろうとも思わなかったけど……。
松陰先生の力には愛がこもっているのならば、その力を向けられない俺は……松陰先生にとってその力を向けられる価値が無い、からだろうか。
まぁ、だとしても俺は俺自身が可愛げの無い子供だというのは分かっている。
俺の父親は俺の先を勝手に決め、その決めた先に俺を置こうとたまに小言を言ってくるが。
それは別に俺だから言ってるわけじゃないのに、気づいてる。
父親はきっと、自分の息子ならば誰でもよかったんだろう。
俺が父親の子として生まれてきたから、俺にああだこうだ言ってるだけに過ぎない。
そのせいで、反抗心から俺の性格はどこか歪み、他人と数歩距離をおくようになった俺は、何とも可愛げなんてないからね。
そんなことを思いながら、さらさらと揺れ流れる水面に歪む俺の姿を見ていた。
見ていれば
「隣失礼します」
水面に姿が一つ増えた。
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